先日のポストで音楽のレビューを投稿するサイトに変えていくと書きましたが、その初回の投稿です。
初回はエルヴィス・プレスリーの名盤『From Elvis in Memphis』です。エルヴィス は誰もが知るミュージシャンですが、その功績に比べ評価が不当に低いと思います。例えば、ロックの名盤ランキングなどでは、ランキングの下位に申し訳のように出てくるという状況です。今回紹介するこのアルバムは彼のデビュー作『エルヴィス・プレスリー登場』と共にロック史に残る傑作であり、アメリカ音楽の最良の部分を再認識させてくれる必聴の名盤です。
『From Elvis in Memphis』(邦題:エルヴィス・イン・メンフィス)は1969年にRCAレコードからリリースされたエルヴィス ・プレスリーの10枚目のスタジオアルバムです。60年代前半の兵役終了後のエルヴィスは、映画とそのサウンドトラックを活動の中心としており、アメリカ国内においても過去の人という扱いでした。このアルバムは、前年のTVショウ68カムバックスペシャルと共にエルヴィスの復活を人々に印象付けるものであり、彼の代表作の一つです。
ポピュラーミュージックのジャンルとしては、カントリーソウルと呼ばれるものです。1960年代前半までのカントリーミュージックの楽曲を、後述するAmerican Sound Studio専属のスタジオミュージシャンThe Memphis Boysと共にアメリカ南部のソウルミュージックにアレンジしています。
American Sound Studioでのレコーディング
「メンフィスにいるエルヴィス から」という意味のタイトルからわかるように、このアルバムは、今までのRCAレコードのスタジオとその専属ミュージシャンから離れ、テネシー州メンフィスにあったAmerican Sound Studioで行われました。このAmerican Sound Studio Sessionと呼ばれるセッションでは、33曲がレコーディングされました。本アルバムと『Back in Memphis』(とそれらのボーナストラック)でアウトテイクを除いた全てのレコーディングを聴くことができます。
レコーディングはエルヴィス がスタジオに到着した1969年1月13日から開始されました。初日は”Long Black Limousine”、”Wearin’ That Loved On Look “とそれ以外のいくつかのアルバム未収録曲が録音されました。翌日1月14日には、”I’m Moving On “と “Gentle on My Mind “が録音されましたが、スタジオ到着時に既に風邪をひいていたエルヴィス は “Gentle on My Mind “の作業中にスタジオを離れ、翌日はスタジオに姿をみせませんでした。エルヴィス 不在の間、バッキングトラックのレコーディングを行い、1月20日にレコーディングに復帰したエルヴィス は”In the Ghetto “をと”Gentle on My Mind “のボーカル・トラックを完成させました。1月22日には「I’ll Hold You in My Heart (Till I Can I Hold You in My Arms)」とアルバム未収録のシングル”Suspicious Minds”を録音しました。その後、エルヴィス は娘の誕生日を祝うための休暇旅行をするため、レコーディングを中断しました。
約1ヶ月後となる2月17日に再開されたレコーディングで、”True Love Travels on a Gravel Road “と “Power of My Love”、翌日2月18日には”After Loving You “と “Do You Know Who I Am? “を録音しました。2月19日には、彼はほぼ一日をアルバム未収録のシングル “Kentucky Rain “のレコーディング費やしました。2月20日、 “It Keeps Right on a Hurtin’を3テイク、”Any Day Now “を6テイクで録音しました。最後のセッションとなる2月22日では、彼は “True Love Travels on a Gravel Road “と “Power of My Love “のヴォーカル・オーバーダブとアルバム以外のいくつかのカットのヴォーカルを録音しました。 翌月、マイク・リーチとグレン・シュプレンはアルバムを完成させるためにストリングスとホーンのオーバーダブの作業を実施し、ほぼ全ての作業が終了しました。
トラックリスト
オリジナルリリースは、12曲目のIn The Ghettoまででしたが、1998年の再発で、ヒットシングルであるSuspicious Mindsを含む6曲を追加し、アルバム全体では18曲になりました。
- Wearin’ That Loved On Look
- Only The Strong Survive
- I’ll Hold You In My Heart (Till I Can Hold You In My Arms)
- Long Black Limousine
- It Keeps Right On A-Hurtin’
- I’m Movin’ On
- Power Of My Love
- Gentle On My Mind
- After Loving You
- True Love Travels On A Gravel Road
- Any Day Now
- In The Ghetto
- The Fair’s Moving On(Bonus Track)
- Suspicious Minds(Bonus Track)
- You’ll Think Of Me(Bonus Track)
- Don’t Cry Daddy(Bonus Track)
- Kentucky Rain(Bonus Track)
- Mama Liked The Roses(Bonus Track)
また、2009年にはリリース40周年を記念して、二枚組のLegacy Editionがリリースされました。このLegacy Editonでは、追加の6曲を一部変更し、同年1969年に発売された2枚組『From Memphis to Vegas / From Vegas to Memphis』の二枚目『Back in Memphis』をカップリングして発売しました。
曲紹介
4.Long Black Limousine
本アルバムの中でのベストトラックであると断言しても良いでしょう。葬式の鐘と教会のようなオルガンで始まる荘厳さすら感じられるオープニングで始まるこの曲は、スタジオに到着したレコーディング初日の録音で、さらに風邪をひいていたことが信じられないほどのボーカルワークを聴くことができます。
原曲は、Vern StovallとBobby Georgeによって書かれたカントリーソングです。最初のリリースは1961年にVern Stovallによってリリースされましたが、グレン・キャンベルの1962年のカバーが有名です。また、R&B,SoulミュージシャンのO.C.Smithの1968年にリリースされたLittle Green ApplesのB面でもカバーされています。エルヴィス のバージョンはO.C.Smithのカバーに影響を受けているようで、ソウルフルなカバーになっています。
5. It Keeps Right On A-Hurtin’
原曲は、Johnny Tillotsonによって書かれたカントリーソングで、1962年の彼自身のメジャーヒットシングルです。ボビー・ダーリンなど様々なミュージシャンにカバーされています。
8. Gentle On My Mind
1967年にJohn Hartfordによって書かれたカントリーソングで、複数のグラミー賞を受賞しています。グレンキャンベルのカバーが有名で、アレサ・フランクリンやパティ・ペイジにもカバーされています。
10. True Love Travels On A Gravel Road
原曲はDallas Frazier とA.L. “Doodle” Owensによって書かれたカントリーソングで、最初の録音はDuane Deeによって行われました。様々なミュージシャンがカバーしていますが、今日ではエルヴィス の録音が最も有名なものになっています。また、カントリーのスーパーグループThe Highwaymenもカバーしています。
14. Suspicious Minds(Bonus Track)
当初オリジナルリリースでは未収録のヒットシングルです。1969年にBillboard Hot 100で1位を獲得し、エルヴィス のシングルが全米ナンバーワンとなったのは、1962年の”Good Luck Charm”
以来7年ぶりのことでした。原曲は、マーク・ジェイムズによって書かれ、彼自身のシングル曲として、1968年にリリースされました。